補足:夫婦の同居義務

(1)夫婦の同居義務

民法第752条は,夫婦の同居義務を定めています。夫婦は同居して,互いに協力して生活していくことが,法律上予定されているのです。もちろん,仕事の都合で同居できない場合もあるでしょうし,そのほかにも同居が困難な事情がある場合もあります。

法律上同居義務があることから,同居を求める調停・審判の申し立てをすることが可能です(家事審判法第9条第1項乙類1号)。この申立てに理由があると 家庭裁判所が判断すれば,同居を命じる審判が下ることになります(最大判昭和40年6月30日民集19巻4号1089頁)。

ただし具体的な事情によっては,同居を命じる審判がされたとしても,同居により夫婦が助け合うよりも互いに傷つけあうような結果を招来する可能性が極めて 高いとして,同居を命じる審判をしないとの判断を裁判所が下すこともあります(東京高決平成13年4月6日家庭裁判月報54巻3号66頁)。


(2)強制執行は不可能

夫婦の同居を命ずる審判は手に入っても,これに基づいて強制執行をする,ということはできません

民事訴訟で物の引き渡しを求める場合のように,執行官に配偶者の首に縄をつけてもらって,毎日家まで引っ張ってきてもらうことはできませんし,「家に帰 らなかったら,1回金○○○○円支払え」という間接強制という方法をとることもできません(大決昭和5年9月30日民集9巻926頁)。

この戦前の判例によれば,夫婦の同居義務はこれを負う者が任意に履行しなければその意味の無いことは明らかなものであって,性質上強制履行が許されないものであることがその理由とされています。

その意味で,当事者がどうしても同居を拒む場合に,その意思に反してまでこれを強制することはできないのです。