補足:正当な理由があれば自分から別居できるが、後で困る可能性も。
(1)「後で困る」ケース
正当な理由があれば自分から別居しても後で困ることは基本的にありません。 ただし、事実面では「後で困る」ケースがいろいろ考えられます。
たとえば、荷物があっても家に帰れない,よりを戻したくても話し合うことすら難しくなる,離婚にこぎつけたとしても自分の方が家を出ることになる,といったことが考えられます。
小さい子供がいて,連れて行くのが難しかった場合には会えなくなったりもしますね。配偶者に出て行かれたことで態度を硬化させた相手に,譲歩を求めにくくもなるかもしれません。
(2)法律上での不利益
法律面では,相手に裁判上の離婚事由を与えてしまう可能性があります。
民法第770条が定める事由がある場合に限って裁判で一方的に離婚ができるのですが,正当な理由もなく出ていくことは,相手からみれば第3号の「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当し,裁判で離婚を認められる可能性がでてきます。
この悪意の遺棄は,正当の理由なく,同居・協力・扶助の義務(民法第752条)を放棄することと解されています。
さらに,離婚原因の発生に主な責任を有する人(「有責配偶者」といいます)からの離婚請求は,信義誠実の原則に照らして認められにくいものとなっています(【離婚ができるか,しなくてはいけないか】にて後述)。つまり,自分から出て行ったことに正当な理由がないと裁判所に判断される場合には,自分からの離婚請求は通りにくくなるのです。
正当な理由なく自分から別居した場合には,上記のように夫婦関係に溝を作る主因が自分にある場合(つまり有責配偶者に該当しうる場合です)とされる可能
性があります。このときに相手が同居等を拒み,婚姻費用の支払も拒んだとしても,これを自分から請求することが出来なくなる可能性もあります(最判昭和
39年9月17日(民集18巻7号1461頁)参照)。
正当な理由もなく相手を一方的に見捨てることは不法行為に該当しうるものですので,相手方に慰謝料請求権が発生する可能性もあります。それまでの事情で相手方に対して慰謝料請求権があったとしても,その額が減額する可能性はあります。
最後に,子供を連れてでることが困難であった場合には,離婚に際して親権を得ることが困難となる可能性があります。
親権の所在は子供の事情を考慮して定められます。もちろん親権を主張する親の愛情は重要ですし不可欠ですが,裁判所が親権者を定めるに当たっては,離婚に
至るまでの,そして離婚してからの子供の生活を考慮してこれを定めます。自分が家を飛び出した後も子供と生活を共にしてその面倒を一生懸命見てきた相手が
親権を争ってきた場合に,親権を得ることは容易ではないでしょう。